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ある日の放課後、図書館で委員の仕事を終えると、校舎内は日中の騒がしさが嘘のように静まっている。
教室に置いた鞄を取りに、足早に廊下を歩く。
夕暮れの教室には誰もいなかったが、部活動をしている生徒の席には鞄だけが置いてあった。
その中の一つに、密かに焦がれてやまない、彼女の鞄がある。
『………』
窓の外からは部活動に勤しむ声が聞こえるのとは裏腹に、校舎内はやはりひどく静かだ。
ぼうっと彼女の鞄を見つめていると、その鞄に手を伸ばしてみたい、触れてみたい、という感情が生まれた。
はじめはごくごく小さかったその感情が、徐々に、確実に膨らんでいく。
ほんの、すこしだけなら。
きっと気付かれまいという都合の良い解釈が何故かストンと腑に落ち、理性や罪悪感を、普段押し殺している感情が、僅かに上回った。
どく、どく、と脈打つ鼓動を沈めるかのように手を胸に押し当てながら、もう片方の手は震えながらその鞄へと手が伸びていく―――。
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