小さな芽

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女子校に入学してもう3ヶ月。 仲の良い友人もろくに居なかった中学時代から何かが変わるのではという期待も虚しく、高校生になった今も私はまた一人席に座って本を読んでいる。 自分が変わらなければ状況は何も変わらないことは学んだが、すでに手遅れだと内心諦めていた。 もうクラス内は完全に仲の良いグループがいくつか出来上がっていて、今更入り込んでいくことなんて到底できない。 だが、私は今の状況を嘆いているわけではない。 見つけてしまったから。 彼女を。 彼女への思いが芽吹いてからというもの、ひとりで過ごす学校生活も苦ではなくなった。 色褪せていた毎日が不思議とカラフルになり、同じ空間に彼女がいるだけで心が浮き足立った。 これが俗に言う’恋’なのだと気がつくまで、そう時間はかからなかった。 きっかけはなんだっただろうか。 はっきりとは思い出せないほど、劇的な何かがあったわけでは無い。ただただ自然と、惹かれていった。 今日も私は、ガヤガヤと騒がしい教室で、一人席に座って本を読んでいる。 正確には、本を読むふりをしながら、彼女を見ていた。 文字を追って小さく上下に動かしていた目線を、そっと本から外す。 その目線の先には、たくさんの友人達に囲まれ、明るく笑う一人の少女がいる。 彼女のまばゆい笑顔。凛と通る声。艶やかな髪。彼女の全てが、私の中の芽に養分となって降り注ぐ。 切なく締め付けられる胸の中で、狭苦しそうに、だが確実に芽はすくすくと育っている。 自分が他人に対してーーーましてや同性に対して、こんな想いを抱くなんて思いもしなかった。 この秘めた想いは報われることはないだろう。報われるどころか、伝えることすら難しいだろう。 それでも良い。この芽が、いつか花を咲かせず枯れて行くまで、この胸の奥底に隠しておくのだ。 感情を表に出さずに押し殺すことは慣れている。 同じ教室に、彼女がいる。それだけで、いい。 自分の中に秘めてさえいれば、誰にも迷惑はかけないのだから。
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