不格好な愛の色

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 共感覚というものは実在するのだろう、と思う。  私はバカだからあまりその辺の詳しい知識を蓄えていないが、いかんせん「人と違うけれど、さほど問題ではない」その部分に四苦八苦していた時期もあったものだ。バカだけれども、悩みはある。  菅原君は出身中学が一緒で、同級生たちと同い年とは思えぬ落ち着いた言動所作もろもろ、女子には人気があり、しかも憧れの対象として男子にも好かれていた。  艶のあった黒髪は高校生になった今では緩やかなパーマがかかっていて艶、というものは消えてしまったけれど、彼の物憂げな表情や色気に拍車をかけて、ますます人気はうなぎのぼり。そんな人気者と私は委員会が一緒だった。  あの図書室の独特の匂いを思い出す。そうだ確か、昨日のドラマが面白かったとか音楽番組で好きなアーティストが出てたとか、成績が悪くて親にバカだアホだと言われるとか、一方的に喋っていたのだ、私は。 「俺、富樫さんは馬鹿じゃないと思うよ」  あまり抑揚の無い優しい声色で菅原くんが言う。中学の図書室なんて誰もこない。皆部活に打ち込むなり塾に行くなり、忙しい。 「なんだろう、成績とかじゃなくて。人のことを良く見てるし、他の人が考えていることが分かっちゃうんでしょう。共感力が高いというか。勉強なんかできなくても、きっと上手くいくよ」  今はちょっと生きづらいかもしれないけれど。  そう言ってもらったとき、私はそれまでとめどなく喋り続けていた口を紡ぎ、「菅原君、私ね」誰にも言ったことの無かったある秘密を打ち明けた。  彼はそれを聞いても、気味悪がったりはせず、「話してくれてありがとう」と呟き笑った。私はちょっとだけ泣いた。  以来、他の生徒とは違う感情を私は彼に持っている。もはや神格化というべきなのだろうか。
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