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「今お母さんがいないみたいだけどどこかに行ったの?」
彰はたまらずに聞いてしまった。
すると、兄貴は深刻そうな顔でこちらを見た。
「お前はまだ知らないほうがいい」
彰はその言葉を聞いて納得できなかった。
(昨日の夢のような時に聞いたサイレン音。そして昨日から見えない母親の姿。
さらに、皆が暗い顔をしている)
彰が状況を理解するまでに一分もかからなかった。
「親父。お母さんは死んだの?」
彰がそう尋ねると親父は驚いた顔を見せ、すぐに作り笑いを見せた。
「さぁ彰!遅刻しちゃうぞ!早く学校に行きなさい」
この時に彰の疑問は確信に変わり、自然と涙が出ていた。
「そうだね。学校行ってくる!」
(親父は僕に辛い思いをさせたくないからわざとはぐらかしているのだ。心配を掛けちゃいけない)
彰の人生はいつもそうだった。次男坊ということもあり親の顔色を窺い、いつも気に入られようとする。期待外れのことを言えば決まって兄貴と比較されてきた。
そんな日常を過ごしていれば自然とこうなってしまう。そしてこの性格こそがのちに悲劇を生んでしまうことになるのだ。
「行ってきまーす!」
元気よくみせた挨拶に返事は帰ってくることなく彰は家を出た。
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