ニゲロニゲロ

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 目が覚めると、部屋の隅で夫が叫んでいた。  真っ暗な空間。まるで浮かび上がるホログラムの様にそこにいるのは、三か月前に死んだ今日子の夫、博。  ぼうっと周りの闇に溶け込みそうな輪郭に、やはり夫は死んだのだと今日子は再認識する。夫は今、世間一般で言う所の亡霊という存在なのだろう。  博は叫んでいる。死んだ時のままのスーツ姿で。病院で見たままの血みどろの顔で。  目を剥いて大きな口を開けて同じ言葉を叫んでいる。けれどスピーカーが壊れた受像機の様に、そこには何の音もない。虚空に浮かぶ博の思いは届かない。  十分もすると夫の姿は電源を切ったかのように消えてしまう。真っ暗な部屋にはまた今日子が一人取り残される。  私と美和を、捨てたくせに。  また溢れそうになる涙を堪えて、今日子はベッドに潜り込む。そこにあるのはおいていかれた者だけが知る絶望。  今更なにを言おうというの。亡霊になってまで伝えたい事があるなら、生きている間に言ってくれれば良かったじゃないの。 
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