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今日子は疲れ切っていたけれど、それでも身体を引きずる様にして家を出る。今日は、夫が経営していた会社に顔を出さなければならない。
突然命を絶った夫の博は、建築事務所を経営していた。一級建築士の資格を持っていた博は、建築学会が主催する賞に入選する建築を数々生み出し、若干四十二歳にして自分の事務所を開き多数の従業員を雇っていた。博は建築デザインに関わる人間なら知らない者がいない程の手腕を発揮し、前途は洋々だったはずだった。なのに彼の人生は、ある日突然終わりを迎える事になる。
連絡を受けたのは、夜中の二時だった。
もうしっかりと夢の中にいた今日子は、枕元の携帯電話のけたたましい着信音に起こされた。そして告げられたのは夫の死。
驚いて、それから目を上げた先にはもう既に亡霊になった博がいた。博は死んだその日のうちに、霊となって今日子の元に現れたという事になる。
あれ以来、今日子は毎夜二時に目覚め、部屋の隅に博の亡霊を見つけ続けている。
四十九日が終わればあの世に行ってくれるのかと思いきや、甘かった。今日子の夫は生前そのままの頑固さで、あの部屋の隅に立ち必死の形相で今日子に何かを伝えようと毎夜毎夜、叫び続ける。
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