プロローグ

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プロローグ

ーーねぇ、将来の夢はある? わたしはこの時、なんと答えただろう。 夜、学校に呼び出され、彼女と花火を一緒に観た記憶も、その問いに困り果て、なんと答えるのが正解か、と口籠もり逡巡したのも鮮明に憶えているのに、その先、彼女になんと言って答えたのか、それだけは、なぜだかなにをやっても思い出せない。 人は、だれしも一度は、将来を夢見る。 スポーツ選手、警察官、女の子なら、料理人や、最近はパティシエや、アイドルといった煌びやかな世界の中に"自分"を描く。 しかし、子どもの頃に描いた夢は、結局は夢で、成長に従って、世や他者に触れることでかすみ……やがて、忘れしまう。それが、まるで自然の摂理かのように、誰しも一度は、経験する。 空想の自分になれるのは、本当にひと摘みのラッキーマンだけで、大抵は、夢は、夢のまま終わる。 母にも、友だちにもそれとよく似たことを言われた。 もう小さい子じゃないんだから、いつまでも夢を追いかけるのはやめて、もう少し『将来』と向き合いなさいと、そう。わたしはそれを、なんとなく、受け入れた。 ーー。でもさ、今日は〇〇なんだから、夢を願ってもいいんじゃない? やっぱりわたしは、この時、彼女になにを言ったのか、屋上の手すりに手をついて、彼女が……その、顔がどうしても思い出せなかった。 いや、思い出したくなかった。 彼女にわたしの"将来"を、確かに教えたのに。 わたしは、夢を口にすることは出来ない。許されない。 なぜなら、わたしの『声』は罪であり、わたしの『夢』そのものなのだからーー。
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