ちぐさ

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 やがて退院する日が決まり,私はしばらくの間,母親の一番下の妹の家に厄介になることになった。未成年という理由で独り暮らしは認められず,保護者が必要だと言われたため,ちぐさにお願いして誰がもっとも私に無関心か調べてもらった。  母親の妹は今年で三十五歳になるが,これまで結婚をしたこともなく仕事漬けの毎日だった。私と最後に会ったのは,私がまだ赤ん坊で母親が正月に実家に連れてきたときだと話していた。  彼女は一度だけお見舞いに来てくれたそうで,その時ちぐさが彼女を気に入ったと教えてくれた。  そんな母親の妹に私から頭を下げてお願いしたのだが,とくに質問をされることもなく驚くほどあっさりと受け入れてもらえた。  彼女からの条件は,掃除と洗濯は完全に分担してやること,家族らしい環境はないので,そういったものを求めるなら他を当たること,仕事が忙しい時は家に帰らない日が続くから勝手にやっていくこと,お互いに詮索はしないこと,勝手に男を連れ込まないことだった。  退院の手続きを済ませ,ほんの僅かばかりの手荷物を持って母親の妹が住むマンションへと向かった。  今まで住んでいたアパートは勝手に解約され,荷物はすべて妹のマンションに届けられているとのことだった。  私は申し訳ない気持ちで彼女のマンションに向かった。教えられた通りに駅から歩き,マンションに着くと,郵便受けにある「佐々木久美子(ささきくみこ)」と書かれた名前を見つけ,三階の彼女の部屋がどこかもすぐにわかった。  インターフォンを鳴らすと,正面玄関のドアが開いた。そのままエレベーターに乗り,部屋に行くと挨拶もそこそこに鍵を渡され「ご飯に行くよ!」とそのまま来た道を戻って駅前のお寿司屋さんに入った。 「あんた,生魚平気?」  お店に入ってから聞かれても……と思ったが,とくに苦手なものはなかったので「平気です」とだけ答えた。
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