583人が本棚に入れています
本棚に追加
/654ページ
そんな華やかな表舞台とはべつに。
試合の前日。ダイブインシステム《ナーブ・オン》を。
一人でゴソゴソといじっている男がいた。
「冬木さん、まだやってるんですか?」
「ああ。最後の調整だ。まだシンクロ率が完璧じゃない」
答えた三十後半の中年男性、冬木は。
イベント主催企業ではなく、ウルバト運営会社の技術主任だった。
「誤差0.02秒なんて、その日の湿気や気温で変わりますよ」
「それが勝敗を分ける時もある。プロの大会だ。手は抜けん」
「けど、もう十一時まわってますよ」
「いいよ、帰って。あと少しだから俺がやっとく」
「そっスか?」
「この仕事が終わったら、俺はここを辞めるからな。最後の仕上げだ」
「そうスか。じゃ、俺たちは帰りますんで」
部下のエンジニアたちは帰っていった。
彼らの姿が完全に見えなくなってから、冬木は違う作業に取りかかる。
外の自家用車からケーブルを運んできて、通常の配線とは別に取り付ける。
それはビル屋上の避雷針とシステムを直結していた。
最初のコメントを投稿しよう!