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夏休み前のテストが終わる頃には私と雪が同じ家に帰ることが謎に学校中に知れ渡っていた。
毎日同じ車で送り迎えされてるんだから、当たり前なのだけれど。
「あの2人、同じ家に帰るから双子かな?」
「え、でも似てなくない?」
「話したところもみたことないかも」
聞こえてますよー。なんて心の中でクラスメイトたちに言いながら明日提出の課題を仕上げる。
雪さんは私以外の人とはちゃんと話す。私のことは相当嫌いらしい。
「ちょっと話があるんだけど。いい?」
私の前の席に座っていた聡が私の方を向いて言う。
「いいけど」
「えっと……」
聡が何か言いたげにする。が、多分ここでは言えない話なのだろう。
「……移動しようか」
私がそう言うと聡はほっとした表情をした。
言いにくい話なのだろうか。
「ありがとう」
私は聡と席を立つ。聡はお金持ちのおぼっちゃまで、一人息子で、高身長でイケメンで優しい。からモテる。あんまり一緒にいると女子の反感を買いそうだ。
「これ……桜、じゃないよな?」
体育館裏の人通りが少ないところに着くと、聡が数枚の写真を見せる。
私だ……。あぁ、こんなこともやっていたな。なんて、懐かしくはないけど、遥か昔のように感じる。みんな元気にしてるだろうか。
「花魁、だね」
バレてはいけない。それしか考えられなかった。この写真の女性は私であって私でないのだ。何故なら彼女は雫であって、私は桜なのだから。それに彼は……こんな世界とは交わりのない人間なのだから。
「雫、っていう人らしい」
黙ったら怪しまれる。けどなにを話していいかわからない。
「何故、持ってるの?」
気づけばそう聞いていた。
「もらった」
真剣な表情の聡。バレたらきっと嫌われる。楽しい学校生活も終わる。きっと雪さんみたいにみんな私を軽蔑する。
「誰に?」
「昨日、知らない人に」
沈黙が流れる。何か言わなきゃ。何か。何か。
「軽蔑、する?」
また、気づかぬ間にそう聞いていた。
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