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「いや……その、軽蔑はしないけど」
聡が私に言う。いや、この質問はこれが私だと認めているも同然ではないか?私は否定の言葉を口にしようとする。……けどなんて言えば?これは私じゃないよ?いやどう見たって私だ。しかも「軽蔑する?」なんて聞いたのだ。認めたも同然なのに今更こんなこと言えるわけがない。
「俺、別にバラしたりとかしないし、今まで通り桜とは仲良くしていたい。ただ、誰かがこれを俺以外の人にも渡してるかもしれないと思って。あと……もし良かったら話を聞かせてくれないかな。何かできることがあるかもしれないし……」
控えめに話す聡。何も、何も考えたくない。私が花魁だったことがバレるのなんか時間の問題だ。この生活が楽しすぎて、そんなことも考えられなかった。
「えっと、そうね、あの、ごめんなさい。何を話せばいいのかわからなくて」
私がそういうと
「じゃあ、質問に答えてくれたらいいから」
と、聡が質問をして私が答える。というのを何度か繰り返した。初めて乗った車で質問されたことと同じようなことを聞かれ、あの時は、不安でいっぱいで、ほんとは少しあの世界に戻りたいとさえも思っていたな。なんて思いながら質問に答えていく。
「じゃあ、裕太さんとも雪さんともほんとの兄妹じゃないってこと?」
「うん、そうなる」
「そうか……」
その後、何を話したのかも覚えていない。
気づけば家にいた。
「桜、今日の学校はどうだった?」
普段は私の学校生活に興味を示さない裕太さんが珍しく私に聞く。私、そんなにひどい表情をしていたのだろうか。
「実は、花魁だったことが知られてしまったの。ごめんなさい」
私がそういうと裕太さんは私を優しく抱きしめる。
「大丈夫だよ。桜には僕がついてるからね」
その優しい声に思わず涙がこぼれそうになる。折角楽しくなってきたのに、花魁だなんて知られたら……。
そんな不安とともに、なかなか寝付けない夜を過ごした。
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