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「ほう。お前はそのようなことを聞く娘ではないと思っていたが、まあよい……息子が、お前を気に入った」
そう言って男は私から目を逸らして窓の外を眺め始めた。
そこは私が一生目にすることはないはずだった高級住宅地。
屋根に雪が積もり、キラキラと光っている。
心臓がドクンと大きな音を立てる。
今頃みんなはどうしているのだろう。
身請けが決まった時に「着替えてこい」とこの男から渡されたワンピースのスカートに描かれている花の模様を眺める。
桜だ。
私を売った母が好きだったという花。何をやらかせばあんな膨大な借金ができるのだろうか。
いや、お金を使うのは想像より簡単だ。きっと馬鹿みたいにお金を使ったのだろう。
「……そうですか」
私はスカートを眺めたままそう一言だけ吐いてその男の息子はどんな人だろう。と考える。
その息子は私に何を要求するのだろうか。毎晩人形のように使い回されるのだろうか。
2億という金額の裏に何があるのか、考えるのが恐ろしくなる。
そして自分に拒否権がないことを改めて知らされ、絶望しそうになる。
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