11人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「そんなにかしこまらないで。敬語もなしにしよう?いきなりこんなところに連れてこられて不安かもしれないけど、僕はあなたを悪いようにはしないから安心してね。まだ16なんでしょ?あぁ!そうだ、家で話そう」
彼はそう一気に言い私の返事を聞かずに私の手を引く。
慌てているのだろうか。手が少し震えている。
車で隣に座っていた男はいつの間にかいなくなっていた。彼は大きなお屋敷を歩きながら自分のことを話してくれた。彼は今20歳。大学で法律を学んでいるらしい。私のことは大学の友達と遊びに来た時に見かけたという。花魁だったので話しかけることすらできなかったとも。
だが、私を選んだ理由は教えてくれなかった。私が聞かなかったからなのだろうけど。
「桜!」
「えっ……?」
彼が不意に立ち止まって私を見て叫んだ。思わず間抜けな声が出てしまう。
私は慌ててワンピースのスカートを見る。そういえば桜だ。このことを言っているのだろうか。でもなぜ今……?なんて必死に考えながら彼の次の言葉を待つ。
「あなたの名前。桜、でどうかな?」
桜。
母の好きだった花だというが、実際のところどうだかわからないし、彼がせっかく考えた名をわざわざ汚す必要もないだろう。第1私には拒否権がない。
最初のコメントを投稿しよう!