1.変化

6/14

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「そんなにかしこまらないで。敬語もなしにしよう?いきなりこんなところに連れてこられて不安かもしれないけど、僕はあなたを悪いようにはしないから安心してね。まだ16なんでしょ?あぁ!そうだ、家で話そう」 彼はそう一気に言い私の返事を聞かずに私の手を引く。 慌てているのだろうか。手が少し震えている。 車で隣に座っていた男はいつの間にかいなくなっていた。彼は大きなお屋敷を歩きながら自分のことを話してくれた。彼は今20歳。大学で法律を学んでいるらしい。私のことは大学の友達と遊びに来た時に見かけたという。花魁だったので話しかけることすらできなかったとも。 だが、私を選んだ理由は教えてくれなかった。私が聞かなかったからなのだろうけど。 「桜!」 「えっ……?」 彼が不意に立ち止まって私を見て叫んだ。思わず間抜けな声が出てしまう。 私は慌ててワンピースのスカートを見る。そういえば桜だ。このことを言っているのだろうか。でもなぜ今……?なんて必死に考えながら彼の次の言葉を待つ。 「あなたの名前。桜、でどうかな?」 桜。 母の好きだった花だというが、実際のところどうだかわからないし、彼がせっかく考えた名をわざわざ汚す必要もないだろう。第1私には拒否権がない。     
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加