彼と彼女と彼のソネット

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「じゃあ、どうして私たち夫婦なのに、一度もないんですか。おかしくないですか」 「やめないか、みっともない」 「あなたがお見合いに乗り気じゃなかったって言うのは、知っています。でも、あなたは私を選んでくれた。だから、結婚したんじゃないんですか。だったら、どうして何もないんですか」 「それは」 「疑ってしまうんです」 何のことだか分からず、つい口を挟む若い男。 「何をですか?」 「他にいい人がいるんじゃないかって。しかも」 女は好青年を見る。 「いやいやいやいや、そんなことあるわけないじゃないですか」 「そうだ、何を馬鹿なことを」 「馬鹿なことじゃありません」 「ありえないですよ。だって、いつも惚気話を聞いてますもん」 「おい!」 「本部長、言わせてください。…今日は楽しみにしてたんです」 「何をですか」 「本部長の奥さんに会うのをですよ。美人で、若くて、料理うまくて、気が利いて。部の飲み会とかで酔うと、本部長は必ず奥さんの話するんです。最高の奥さんだって。だから、みんなでどんな人なんだろうなーって、よく噂してます。で、今日はうっかり自分が終電終わってるの気づかなくて、そしたら本部長が泊まってけーって。うちの奥さん、優しいから絶対大丈夫だからって。…俺、来ちゃまずかったですかね」     
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