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「…ああ」
「私のこと、愛してないんですね」
「いや、そうは言ってないだろ」
「じゃあ、キスでいいです」
「は?」
「キスでいいですから、してください」
「だから、そういう…」
女が中年男性の前に進み出る。
「お願いします、キスしてください」
中年男性は困惑しながらも妻の肩に手をのせる。そして、己の顔を彼女に近づけていく。が、唇が触れ合う直前、体を翻す。
「すまない」
「…キスも駄目なんですか。じゃあ、いったい何ならいいんですか」
「すまない」
「私のこと、好きじゃないんですね」
「そんなことはない」
「じゃあ、どうしてですか」
「…恥ずかしいんだ」
「私たち夫婦ですよ、何を恥ずかしがるっていうんですか」
「それにやり方も分からないし」
沈黙。
「したことないんだ、そういうの!」
「え?」
「だから、したことないんだ。やり方も全然、分からない」
「…本部長」
「ずっと男子校だったんだ、中学からずっと男子校だったんだよ!」
「でも、だからって」
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