3人が本棚に入れています
本棚に追加
DAY2
ぐつぐつぐつ。
お湯が煮立っている。
私はパスタの封を切りお湯の中に投入した。塩も一つまみ。
今夜はミートソーススパゲティだ。といっても市販のものではない。
今は亡き母直伝のスペシャルなやつだ。
これは恐ろしく手間がかかるがその分味は絶品。どこに出しても通用するだろう。
ソースは既にできていて流し台のところに置いてある。
キッチンが狭いのでここしか置くところがない。
「♪~♪~」
鼻歌交じりに菜箸でパスタをほぐす。
私は上機嫌だっだ。しかし、
ぷぅ~~ん
耳障りな音がした。
蚊だ。
首を振り蚊を追い払おうと試みる。
ぷぅ~~~ん
効果はない。
「はあ…」
私は菜箸を手放し蚊を退治することにした。
バシッ
バシッ
…ぷぅ~~~~ん
当たらない。キッチンの上は薄暗く、蚊の姿がとらえにくい。何故上にばかり逃げるのか。
目を凝らして奴の姿を探す。
―――いた。
キッチンの上の備え付けの棚に奴はいた。背を伸ばせば何とか届く位置だ。
「ハッ」
軽くジャンプするようにして蚊を叩く。
バシィ
やった。仕留めた。
しかし勢いあまって倒れそうになる。とっさに手を出す私。そして――
ガコッ
蛇口のレバーを倒してしまった。
その瞬間滝が出現した。母との思い出の詰まったミートソースの上に。
ドドボドドドボドドドボドドドボド
無駄に勢いのいいウチの蛇口。
あわててレバーを戻すも時既に遅し。
スペシャルなミートソースを6倍に薄めるというアレンジを加え私の夕食は完成した。
「…」
その場にへたり込む。涙がにじむ。
「…くううううううぅぅ」
悔しい。蚊ごときにのために夕飯を失った。
作り直す?馬鹿らしい。買い出しを含めたら2時間はかかる。
もういい、今日は寝よう…。
私は半べそをかきながら就寝した。
――翌朝。
私は手と足とこめかみを刺されていた。
ぽりぽりぽりぽり…
かゆい。
私は一人舌打ちをした。
怒りと悔しさに顔を歪ませながら。
最初のコメントを投稿しよう!