失うくらいなら持たない方がいい。

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「え、今日限りで辞めさせていただきたい?」 「はい。急なんですけど、すいません」 参ったなぁと店長が頭を掻く。 僕のバイト先は、普通の飲食店だった。大学の最寄り駅からも比較的近く、同じ学部の奴らとも顔を合わせることは多かった。 その度に見つからないようにしようと必死になったんだけど、普通にバレてしまった。 幸い良識ある奴らばかりだったので、わざわざ迷惑をかけるようなことをされることもなく、何事もなくバイトに勤しんでいた。 辞めようと思ったきっかけは、掛け持ちしてたバイトの数を減らしたかったからだ。 夜勤のバイトも入っていたり、流石にこのまま続けるのは身が持たないと思ったんだ。 そして店長からは、頼むからあと一週間だけ続けて欲しいと言われた。何やら新人の子の育成をして欲しいのだそうだ。 そしてその日、彼女はやって来た。 「えーと、よろしくお願いします……」 「うん、よろしく」 その子の手際は見事なもので、飲み込みも凄く早かった。僕が辞める日には、もう大丈夫な水準まで達していて、僕が教えることもなくなり、後腐れなく辞めることができた。 その時は思いもしなかった。まさか同じ大学で、同じ二回生だったなんて。
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