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最後の日まで、あと二日に差し迫った日のことだった。
「あの、もし良かったら連絡先、交換…しませんか?」
この頃はまだそういう気持ちではなくて、ただの友人作りのような感覚だった。
同じ年齢や先輩との絡みが多いせいで、後輩というものが少し恋しかったのかもしれない。
「……あ、はい。えっと……」
彼女は数秒固まって、ようやく自体を把握したように携帯を取り出した。
スマホを操作するが、難しい顔。どうやら慣れていないらしかった。
「……大丈夫ですか? いけそう?」
「……あ、はい。これで」
そう言ってバーコードの映った画面を差し出してくる。それを読み取り、登録完了。
ふむ、苗字だけ、か……。
「それで、お名前って……」
「……え?」
彼女も僕と同じ事を考えていたようで、そのことに驚き頭が真っ白になった。
「……あ。えっと、し、下の名前ですっ……!」
彼女が手をバタバタ振りながら慌てて訂正する。
顔を真っ赤にしているのを見て思わず笑ってしまい、少し怒った顔をされた。
「……ご、ごめん。富川慎。キミは?」
「……はい。八嶋春子です……」
「春子さん、か。安直なこと聞くけど、春は好き?」
僕は空を見上げて問いを投げかけた。星が綺麗に瞬いていて、街灯や店の明かりに照らされたこの場所でも、美しく鮮明に見えた。
「……苦手です。冬も、ですけど」
「そうなんだ。なぜ?」
「あ、えっと……冬は別れの季節だからです。春は出会いの季節だから」
彼女も、僕につられて空を見上げた。その横顔は悲しそうだった。
黒いストレートヘアが風に揺れる。僕はそれに見惚れながら、彼女の声を聞いていた。
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