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八代さんは、得体の知れない人だが、特別な力を持っている。
スマートフォンのストップウォッチ機能で、俺はそう確信した。
雨の降り始める時間がいつからか、公園を出るときに測っていたのだ。
ぽつん、と額に雨が落ちたのを感じてスマートフォンの画面を見ると、2分51秒が経過していた。何秒か誤差があるけれど、八代さんから聞いて少し経っていたからだからだろう。ほぼ、正解だ。
ふと、「雨が降る」のスタート地点は何処なのかと気になった。
俺の額に落ちた雨が、「この街で一番初めに降った雨」というわけではないし。
地面に最初に雨が落ちた瞬間なのか?雨雲が水蒸気を貯めて、初めて空に雫ができた瞬間なのか?
八代さんがはっきりと言った「176秒後」とは、何を指したのだろう。
今度会ったらまずはそれを聞いてみよう、と思った。
もっと他に、彼に聞くべきことがあった。彼について考えなきゃいけないこともたくさんあった。なのに、俺はそういう、くだらない、要は核心を突いていないことばかりに考えを巡らせていた。
後から思えば、わざと気づかないふりをしただけかも知れない。
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