ブラック・ミックスジュース

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4年間、その日のことはしっかり封印していた。けれど昨日、またあいつがいた。見たのは、秋の連休に家族でバーベキューをしに行った河原だった。 帰りの車に荷物を積み込む手伝いをしていたときだ。一人釣竿を川に垂らしていた。 たくし上げた腕に彫ってあったのが例の花だ。腰掛けた岩に、またプラスチックの容器を置いていた。 俺は、何がなんでも早く出発したくて、まだやっていない宿題があったと嘘をつき、早く帰らせてくれと両親を急き立てた。 母親同士の親交が深かった母さんは、名残惜しそうだった。しかし、申し訳ないがそのときどうでもよかった。 一刻も早く、この場を立ち去らなければいけない、その思いだけだった。 出発してすぐに降り始めた夕立ちを見て、運転席の母さんは、信号待ちのとき俺を振り返り、 「危なかったわね」 と言った。火起こしやら水汲みやらでまめまめしく働いてぐったりと助手席に座った父さんは、 「悟の宿題に感謝だな」 と笑った。 その日の夕飯時に、母さんはスマートフォンを見て俺を呼んだ。 「トモくんのお母さんが教えてくれたんだけど、あの後の雨で滑って、川に流された人がいるんだって。気をつけないとね。お母さんもつい長居したくなってたけど、夕方だと周りも暗いし」 「その流された人、どうなったの」 「…どうだろう。トモくんのお母さんは救急車が呼ばれていたところを見ただけみたいだから。助かってるといいけど」 「…そうだね」
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