ブラック・ミックスジュース

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「私が普段何をしている者なのか気になるようだが」 黙ったままの俺に、八代さんは言った。俺の考えていることを悉く先読みするその目は、ビー玉のように透明だ。怖い。 でも、どうしようもなく気になる。 「それを私から言うと、私が罰せられるから言えない」 色々と教えてくれたのにすまない、と昔一度だけ泊まった高級ホテルに勤める人がしていたようなお辞儀をする。 「自分から、ってことは、俺から当てる分にはいいんだ?」 図々しいかなと思いつつそう尋ねると、八代さんは首を傾げた。 「たしかにそうも取れる」 あなたは頭がいい、と口の端をほんの少し緩ませた。思いのほかその表情は柔らかいから驚いた。 風が急に強くなって無意識に髪を抑える。 「あと176秒で」 唐突に八代さんがつぶやいた。 「え」 「雨が降る」 「え?」 「濡れるのが嫌なら、急いだ方がいい」 「うん、え、八代さんは」 「私は濡れるのは全く構わないから」 そう言って再びベンチに座ると優雅に長い脚を組んだ。 有無を言わさぬ雰囲気を感じて、 「じゃあ、サヨナラ」 スマホを一瞬操作すると、くるりと出口へ向かって走る。振り返ったらいないのではと思ったが、後ろを見ると、彼はまだベンチに座って池を眺めていた。 「まだ聞きたいことあるから、今度会ったら教えてよ!」 そう叫んだら、八代さんは誰かから隠すように指で小さくオーケーのサインを見せた。 ちょっと面白い。 俺は駆け足で家へ帰った。
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