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その日は谷中さんから夕飯に誘われた。もちろんOKである。近所の割烹料理屋さんに予約がとってあるという。理沙は私服に着替え、おしゃれしてその場に向かう。谷中さんは先について待っていてくれたようだ。
「早いですね。待ちました?」
「いや。今来たところだよ」
二人で食前酒を乾杯する。
「今日は型屋に修正の打ち合わせに行ったんだっけ?」
「そうです。もう修正だらけで時間がかかりました」
「なんでそんなに修正があったのかな。珍しいな」
「そうですね。しかも型がかなり汚かったらしいですよ」
「汚れ?まさかそのせいで型に不具合がでたとか」
「いいえ。きちんと立ち合いましたから。それはないと思います」
「立ち合いの時に何か気が付いた事はない?小さな事でもいいよ」
「蚊がたくさんいただけですよ」
理沙は言ってみて笑ってしまった。蚊のせいで不具合が生じたとしたら蚊に刺された機械オペレーターの手元が狂ったくらいであろう。だがそんな様子は無かった。
「蚊が巻き込まれたのかな?」
谷中さんが真面目な顔で言う。
「蚊が巻き込まれたていたとしても熱で蒸発してしまいますよ。成分くらいですか。残るのは」
「そうか。そうだよな」
二人して笑ってしまった。
「そういえば蚊が怖いって言っていたな。そのせいなのか?」
「そのせいもあるかも知れないですね」
たわいもない会話を繰り広げていると料理が運ばれてきた。二人は料理に手をのばす。
「蚊の話はやめにしましょう。料理が不味くなる」
理沙はそう言うと、またもやお腹に人間の血をたっぷり貯めた蚊を想像して身震いした。
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