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倒壊する恐れのある建物だ。すぐに連れ戻さなければ大変な事になる。
「クルー、お前はここにいてくれ。もし何かあればすぐに人を呼んでくるんだ」
「え! レ、レルム様!? 駄目ですよ! 行くなら私が……っ」
「駄目だ。あの子は私が連れ戻す」
戸惑うクルーをよそにそう言うと、レルムは用心深く建物の中に足を踏み入れた。
朽ち葉が踏む度にパリパリと音を立てる。穴が空いた壁には、まるで何かを引きずったかのような痕跡が残っていた。
入口から入り右手には暖炉とキッチンと思われる場所がある。さらに奥に進むと、左右に廊下が分かれており各廊下の先にはそれぞれ一つずつ部屋が設けられていた。
左の廊下の先の部屋は、ボロボロながら扉が閉じられている。右の廊下の先にある部屋の扉は完全に崩れており、中にマーヴェラがの後ろ姿が見えた。
「マーヴェラ……」
その後ろ姿に声をかけると、マーヴェラはじっと床を見下ろしてこちらを振り返ろうとしない。
レルムがゆっくりと彼女に近づくと、マーヴェラはパッとこちらを振り返った。そしてその眼には大粒の涙が流れていた。
マーヴェラのその姿に驚いたレルムが、不思議そうに彼女の前にしゃがみこむ。
「……どうしたんだ?」
「……」
流れる涙もそのままに、マーヴェラはゆるゆると首を横に振った。
その手には、ここで拾ったのであろう小さなボロボロの布袋が握られている。
「マーヴェラ……戻ろう。ここは危ないよ」
静かにそう声をかけるとマーヴェラは小さく頷き返し、レルムと共に歩き出そうとしてフラッとよろめくと、突如として彼女は意識を失った。
「マーヴェラ?!」
倒れたマーヴェラをその胸に抱き留めたレルムは驚いたように声を上げる。
慌てて顔を覗き込むと、呼吸が荒く、顔に赤みが差して熱くなっていた。
レルムには一体何が起きたのか分からなかった。先ほどまで元気だったマーヴェラが、突然の高熱で倒れる原因がなんだったのかも。
急いでマーヴェラを抱き上げ廃墟から飛び出すと、クルーと共にデルフォスへ向かって馬を走らせた。
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