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覚えのない記憶
マーヴェラは夢を見ていた。
おぼろげに映る人影。誰なのかは分からず、男なのか女なのかさえ分からない。だが、自分と同じ赤い髪をしていると言うことは分かる。
とても長い髪をしたその人は、とても寂しそうな眼をしていた。
こちらを肩越しに振り返っていたが、やがてゆっくりと前を向くと、どこかへと歩き去って行ってしまう……。
『待って……!』
そう声を上げ、追いかけようと手を伸ばしたが歩くどころか動く事さえままならない。何とか追いつこうともがいてみるもどんどん距離は離れて行き、そして姿が見えなくなってしまった……。
暗闇に取り残され、呆然としてしまう。すると今度はどこからか、誰かの声が聞こえてくる。
『あなたを恨んでいる訳じゃない。でも……確証が得られないの……ごめんなさい……』
酷く悲しそうにそう話す女性の声。そしてまた、違う女性の声も聞こえてきた。
『そなたに今一度、術をかけよう。もう二度と、悲しみの中に生きないように……。だからどうかその命、繋いでおくれ……』
願いを託すその言葉。
何を言おうとしているのか理解が出来ない。それでもマーヴェラにとって、その声の主たちはとても深い繋がりを感じさせてやまなかった。
縋りつきたくなるほど懐かしくて、切なくなる。だからどうしても、その声の主たちの元に辿り着きたかった。
「……っ」
暗闇をやっとの思いで動き出そうとした時、聞きなれた声が後ろの方から聞こえた気がしてマーヴェラは足を止め振り返った。
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