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静かな暗闇。誰の声かを確認したくて耳を澄ませてみたが何もない。
気のせいだと再び前を向き歩き出そうとした瞬間、グラリと視界が揺れた。
その眩暈にも似た感覚……。どこかに引き戻される。
マーヴェラは直感的にそう感じた。
ふぅっ……と体が軽くなり、意識が遠のきかける。
『……目覚めても、悪用されないで欲しい』
意識が戻りそうな感覚に引き寄せられる中で、かすかに聞こえた男性の声がやたらと脳裏にこびりついた。
「マーヴェラ!」
良く聞き慣れた誰かの力強い呼びかけに意識を引き戻されたマーヴェラは、パッと目を見開いた。そして自分を覗き込んでいる心配そうなリリアナとレルム、さらにはドリーと見知らぬ男性医師の姿を視界に捉える。
「ムー……リーナ……」
小さな声で名を呼ぶと、その場にいた誰もが深い安堵のため息を吐いた。
特にマーヴェラの手をしっかりと握りしめていたリリアナは、心から安堵したせいで大粒の涙をこぼしていた。
「良かった……。もしかしたら目覚めないんじゃないかって、思って……。本当に良かった……」
涙をこぼしたまま、握りしめていた手を両手で包み込むようにして握り、その手に額を押し付ける。
その隣で、レルムも心配そうに手を伸ばしマーヴェラの頭にそっと手を置いた。
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