覚えのない記憶

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 部屋にはリリアナ、レルム、そしてマーヴェラの三人になった。 「具合はどう? 痛いとか苦しいとかない?」 「大丈夫……」 「本当に無事で良かった……。目覚めたばかりで訊ねるのは違うのかもしれないが、マーヴェラ。あの日何があったんだい?」  その問いかけに、マーヴェラはハッとして自分の手を見た。  あの時に持っていたはずの布袋がない事に気が付き、視界をさまよわせる。 「袋、ない……」 「袋?」  レルムが不思議そうに首をかしげるが、あの日マーヴェラが握りしめていた小さな布袋の事を思い出した。 「あの袋なら、ここに戻ってきた時にはもう持っていなかったな。どこかに落としてきたのかもしれない。……あれは何だったんだ?」  そう問われて、マーヴェラは元気なくゆるゆると首を横に振る。  あの布袋が何だったのかはマーヴェラ自身にもよく分からない。それでもあの場所に行って、かすかな呼び声のままに拾った物だった。  あれを手にした瞬間、言いようのない淋しさに囚われて泣きたくもないのに涙が溢れ出てきてしまった。 「……分からない」  さきほど見ていた夢も、もう思い出せなくなっている。  誰かがいた。誰かが自分に向かって話しかけていた。そこまでは記憶にあるのにそれ以上は思い出せない。  黙り込んだマーヴェラを見て、リリアナとレルムは顔を見合わせると力なく笑みを浮かべた。 「分かった。いいよ。無理させてすまなかったね。ゆっくり休みなさい」 「そうね。しっかり休んで。何かあればすぐに呼ぶのよ?」 「……うん」  レルムとリリアナからお休みのキスをもらい、マーヴェラは再び目を閉じた。
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