覚えのない記憶

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 そんな彼女を見つめ、二人は静かに部屋を後にすると自室へと戻った。  扉を閉めてほどなく、リリアナはおもむろに口を開いた。 「レルムさん……マーヴェラの事なんですけど……」 「……今回の事で、あの子は自分が何者なのかを本格的に知りたくなったかもしれない」  レルムはリリアナを振り返る事もなく、まっすぐ前を向いたままそう伝えた。その言葉にリリアナが首を傾げると、レルムはゆっくりと振り返り真剣な表情で向き合った。  リリアナも、その事が気になっていたのだ。  自分は母親だが彼女の事をほとんど知っていない。それはレルムも同じだが、本当にマーヴェラが自分が誰なのかを知りたくなった時、きちんと答えられないのかと思うと仕方がなかった。  マーヴェラは自分たちの娘だと言い切ることは簡単だ。しかしそれは、これから先彼女が求めるであろう答えではない。ただはぐらかしているだけなのだ。きっと彼女は真実を知りたいと願うだろう。  それは、リリアナにも身に覚えのある事だった。  その答えを問われた時に何も答えられないのでは、彼女をただ傷つけるだけのような気がして仕方がないのだ。 「……あたし、マーヴェラの事本当に大好きです。何があっても自分の娘だって言い切る自信もあります。でも、その前にあたし達はあの子が誰なのかを知っておく必要もあると思うんです」 「そうだね。君の言う通りだよ。でも今は静かに見守る時期にあると思うんだ。その間に私たちにも、覚悟を決める時間を作らなければ……。あの子を、本当の意味で受け入れる覚悟をね」  レルムはマーヴェラと一緒に森に立ち入り、マーヴェラの言う言葉こそ聞こえなかったもののあの場所が彼女にとってなにか縁のある場所である事は感じていた。  それが何かを知る為にも、あの場所にもう一度出向き調査してみる必要があると考えている。  リリアナはその言葉に何か良くないことを感じ取り、不安の色をあらわにした。 「レルムさんたちが一緒に行ったその場所に、何か手掛かりがあるんでしょうか」  「おそらく……。もう一度あの場所を調査してみるつもりだ。ハッキリしたことが分かるまでは、あの子はこの城の人間以外に姿を見せない方がいい。過保護だと言われてしまうかもしれないが止むを得ない。これはあの子の為でもある……」  その言葉にリリアナは深く頷き返した。
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