覚えのない記憶

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 その後、マーヴェラはこの時見た夢の事をすっかり忘れてすくすくと元気に育っていった。  ただ一つ、あの日を境に頻繁に高熱や発作を起こし寝込むことが増えたと言うことを除いては……。  レルムやリリアナにしてみれば、その原因不明の高熱や発作は人前に出さない為のよい口実となった。  病弱なマーヴェラを人目に晒すことはできないと、これまでのマーヴェラの誕生日パーティも本人不在で行ってきた。自分自身の意思で物事を考え、決めて、自らの責任の元動けるようになる二十歳の誕生日を迎えるまでは……。  城の人間たち以外の、誰の目にも触れさせずに育ててきたマーヴェラ。  あの日から更に7年もの月日が経ち、マーヴェラは誰よりも美しい女性として成長を遂げていた。  かつてあったような会話のたどたどしさも抜け、立ち振る舞いももう一人前になっている。  そんな中で、これまでどんなに人目をはばかっていても、偶然バルコニーに出ていたと言う彼女を見かけた人物から、噂話は流れていった。  ――世にも珍しい髪色をした見目麗しき姫君が、デルフォス住んでいる。  どこかでその話を聞き付けた男たちは、こぞって彼女との面会を熱望するようになっていた。  せめて遠巻きにでも見ることは出来ないかと、城の周りに張り付く輩もいるほどだ。  そして何十通にも及ぶ、見たこともない姫君への求婚の手紙は、尽きる事無く毎日のようにマーヴェラに送られてくるようになっていた。
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