覚えのない記憶

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「マーヴェラ様。お手紙が届いておりますわ」  ドリーが手にした両手で抱えるほどの大きなトレーの上には、山と積まれた手紙の数々がある。  自室のバルコニーで風に当たっていたマーヴェラはそれらを一瞥し、盛大なため息を吐く。 「また来たの? どんなに手紙を送られてきたって、見ず知らずの相手と結婚するつもりなんてないわ」  赤い髪を風になびかせながら、うんざりした表情でそう答えたマーヴェラはバルコニーのふちに頬杖を着き、面倒くさそうにぽつりと呟く。  あまりにも外野がざわつくものだから、近頃はあまり表立ったバルコニーにも出られないことに、いつにも増して気分はすこぶる悪い。 「では、こちらの手紙はいつものように処分してしまってもよろしいのですね?」 「いいわ。残しておいたって仕方ないでしょ。読まないんだもの」  そっけない態度でそう答えると、ドリーはペコリと頭を下げ、持ってきた手紙をそのまま処分するために持ち帰った。  その姿を見送ったマーヴェラはくるりと外に向き直る。 「明日は私の20歳の誕生日。今まで主役不在でパーティを行ってきたのに、なんで明日は出なきゃいけないのかしら……」  20歳の節目の誕生日だからだと言っていたリリアナの言葉も分からないわけじゃない。そして嬉しくないわけでもないが、どうしても気が進まなかった。 「もう20歳か……。別に私だって、結婚願望がないわけじゃないんだけどね……」  誰に言うでもなくぽつりと呟く。  風に揺れる木々の葉を見つめ、マーヴェラは浅いため息を吐いた。  明日の誕生日。その誕生日で、レルムやリリアナが一番恐れていたトルバトス王国の第一王子が潜んで参列することを、この時は誰も知るはずもない。  完
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