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エピローグ
「子宮口全拡大。杉山はるみさん分娩室に入ります」
「はい。お願いします」
私は妊婦さんの足元に立ち、妊婦の会陰保護をしながら、赤ちゃんが4回の回旋を行い参道を通り出産するのを介助する。
ふー。
ほんとうに微かに、周囲に気づかれない程度に小さく息を吐き、私はウララという女神の技術を脳内で反芻する。
第3回旋、赤ちゃんの頭が見える。
お母さんに努責をやめさせ、はっはっと短い呼吸を促す。
第4回旋、赤ちゃんの肩から3分の1くらいが見えた時、両手で腋窩を掴み、お母さんのお腹に向かって弧を描くように赤ちゃんを取り出す。
『ほんぎゃー』
胎児から新生児になる瞬間。
私と、私の同性パートナーの間に赤ちゃんを望む事は出来ない。
でも私は、命をかけて命を繋いでいくこの出産という現場に、助産師として携わる事に誇りを持っている。そして私のパートナーは、読者が楽しめる雑誌を作る事に誇りを持っている。
私に助産師という道を示してくれた。
同性が恋愛対象だと気づかせてくれた。
今もあの病院で働いているのだろうか。
私はパートナーと出会い、互いに住みやすい、今の街の病院で働いているけれど。
今もあざやかに思い出す。
「はい、もういきまないで」
穏やかに優しく、きっぱりとお母さんに言うウララ。
第3回旋から第4回旋、ゆっくりとお母さんのお腹に向かって弧を描くように赤ちゃんを取り上げる。
神々しく芸術のような生命誕生の瞬間を演出する彼女。
ウララ、私の女神
あの日のあの技術を目標に、私は約束通り助産師になりました。
fin
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