第1章

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木曜日、予定通り4週間の産婦人科実習を終え、私は指導担当の助産師や師長さんに挨拶し、病棟を出た。 その夜23時頃、お産が無ければ一番落ち着いている時間であろうこの時間に、私は産婦人科病棟に忍び込んだ。 大きい総合病院は、夜間も救急患者やその家族が出入りする出入口がある。 病棟は科により変わるが、何ヶ月も実習で通い慣れた病院。かって知ってた私はちょうど入っていく人たちに紛れて出入口を通り抜け、病棟に向かった。 驚いたのはウララ本人よりも、その日のウララと同じ夜勤だった助産師。 「な、何してるの!?」 私は正直に打ち明けた。浦田さんに憧れていたが、実習が終わりもう会えないので会いに来たと。 変な言い訳をしなかった事が良かったのかもしれない。ウララとそのペアの夜勤者は休憩室に入れてくれ、飲み物まで出してくれた。 「ひゃーそれにしても夜中の病院まで来るなんて。えらい好かれたもんやね、浦田さん」 そう話しを振られたウララは照れ臭そうに笑っていた。正確な年齢は知らなかったが、おそらくその頃で30過ぎくらい。そんな10歳以上年上の人を、可愛いと思った。 「純情な学生さんの気持ちを汲んで、今日の事は学校には内緒にしておいてあげるね」 ペア夜勤者にそう言われ、私は初めて自分がとんでもない事をやらかしたと気づいた。 学生が夜中の実習先の病棟に忍び込んで現場の助産師さん達の業務の邪魔をするなんて、これはもう、停学処分レベルのまずい行動だということに。 「ほんとうにすいません」 何度も頭を下げる私にウララが言った。 「憧れてくれるなら、あなたも助産師になってね。いつか一緒に働きましょう」 「はい、絶対に助産師になります」 天にも昇る心地。夜勤中のウララは走り回って一層ボサボサ髪。少しズレた眼鏡の女神に私は必ず助産師になりますと誓い、病棟を後にした。 翌日、学校から何も呼び出しはなかった。約束通り、内緒にしてくれたのだろう。優しい助産師さん達に感謝しかない。
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