プロローグ

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プロローグ

「はい、もういきまないで」 彼女は穏やかに優しく、そしてきっぱりと言った。 分娩台に横たわる、今から母となる女性の足元に立ち、会陰保護を行っている彼女の表情は引き締まり、どこまでも凛々しく全身にオーラを纏っている。 胎内から出産までの道のり、赤ちゃんは4回の回旋を行い、お母さんの努責にも助けられ、この世という大海に出てくる。 第3回旋でぐぐっと頭が外へと押し出された時、彼女はさっきの言葉を口にした。 第4回旋、赤ちゃんは横向きに回転し肩から3分の1くらいまでの腕が見える。彼女は赤ちゃんの腋窩に両腕を差し込みしっかり支えながら、ゆっくりと、お母さんのお腹に向かって弧を描くように赤ちゃんを取り上げた。 『ほんぎゃーほんぎゃー』 命を繋いでいく瞬間。 神々しい芸術のような生命誕生の瞬間を演出する彼女は、助産師。 なんて素敵な人だろう。 ああ私は 私は彼女に 恋してる。 ※努責 赤ちゃんを生み出すためイキむ動作 ※会陰保護 産婦の会陰部が出産時に傷つかないよう助産師が行う技術 ※腋窩 わきの下
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