縣の嫁

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信孝さんに視線を向け助けを乞うと、彼は黙って僕の手にあるお猪口を手にし、昆さんがそこに熱燗を少し注いだ。 「同じ杯で新郎新婦が酒を三度ずつ呑んで・・・説明が長くなるから割愛するけど、夫婦の結束を固めるんだ。結婚式でよく行うアレ」 「アレ?」 「そう、それを今ここでする。父はそういうことに五月蝿いんだ。式は挙げなくてもいいけど、夫婦になったからにはちゃんとけじめをつけろって言われた。盃ではなく御猪口だけど」 信孝さんが見本を見せてくれて、見よう見まねで御猪口を口に運んだ。みんなに見られて手が震えたけど、その都度フォローしてくれた。 「信孝さんが身を固めたなら、残るは龍成さんだけですな」 皆の話題はここにいない龍さんに向けられた。 「龍成さんは、俺ら古参の者より若い衆と呑んだ方が楽しいみたいだが、昆、誰かいねぇのか?」 「なぜ私に!?」 「お前、龍成さんの子守り役だろう」 「そうでした。お付きあいされている方はいますよ。かなり年上ですけど」
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