縣の嫁

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「溜まっていたの?」 本当情けない。 「ごめんなさい」 謝ると、お返しとばかりに上唇に軽くキスをしてくれた。 「いいよ」 お湯も汚しちゃった。 あとでちゃんと掃除しないと。 「やらないといけない仕事があるんだろ。手伝うよ」 「うん、ゴメンね」 「その代わり・・・」 耳朶を甘噛みされ、今夜続きをしようと囁かれ、心臓がドクンと跳ね、体温が一気に上がった。 「ナオ、ゆでたこさんみたいで、本当に可愛い」 再度、むぎゅーーっと抱き締められたけど、ふと気が付けば、浴室のドアの所に、かなりご立腹の様子の昆さんが腕を前で組んで仁王立ちしていた。 「信孝、ナオさんのこと、風邪をひかせるつもりですか?」 眉一つ動かない無表情で言われ、一気に凍り付いたのはいうまでもなく。 「ナオさんは、縣の大事な嫁です。貴方だけのものじゃありませんよ」 釘を刺され、彼、肩を落とししゅんとしていた。 午前中には、福光家から着替えが届くからと信孝さん。もっといちゃつきたかったのになと独り言をぼやいていたけど、どう抗っても所詮昆さんには敵わない。 着替えが届くまで、下は柚さんのジーパンを、上は彼のシャツを借りる事に。玄関の掃き掃除と雑巾掛けをしてから、靴箱を開けて驚いた。 「ねぇ信孝さん。このおうちの人って一人何足革靴を持っているの?」 「多分7,8足くらいじゃないかな」 って多すぎない?よくは分からないけど。 信孝さんは、というと、龍さんにジーパンとシャツを借りたのを着ていた。年甲斐もなくペアルックは・・・と渋っていたものの、結局龍さんの悪ノリに付き合う事に。 「若さんにそんなことさせられません!!」 って若い衆が真っ青になっていたけど、当の本人は全く気にする事もなく、隣に座り革靴を磨くのを手伝ってくれた。何気に地味な作業だけど、彼が一緒だから、すごく楽しくて、さっきから顔が緩みっぱなしになっている。
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