縣の嫁

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「ま、待って」 「煽ったナオが悪い」 するっと、帯が解かれ、裾を割って、信孝さんの手が腰の辺りをまさぐり始めた。 「やぁだ」 その冷たい感触に、ざわざわと悪寒がさざ波のように襲ってきて。 大好きな彼の手なのに、何でだか分からないけど、怖くて、怖くて。 「信孝さん、待って」 恥骨を撫でながら、滑り込むように、萎えている中心を掴まれ、体が戦慄くのを感じた。 やっぱり何か変・・・。 その時ーー。 信孝さんの体に、重なるように、黒い影が見えた。 それは、やがて、一つのカタチとなり、ゆっくりと覆い被さってくる。 その影はーーーー。 (礼さん・・・) 瞼から、涙が自然と溢れ出る。 いっぱい傷付けた。 いっぱい苦しめた。 謝っても謝りきれない、僕のお兄ちゃん・・・。 「ナオ、どうした?」 異変に気が付いた、信孝さんが手を止め、上体をゆっくりと起こすのが分かったけど、後の事は覚えてない。 ただ、このまま息が止まれば、楽になるのに。 本気でそう考えていた。 そしたら、目の前にいる、忌まわしい影にいちいち怯える事にない。 折角、信孝さんの所に帰ってきたのに、僕が、礼さんから受けたココロの傷口は、深淵の闇のように、深く深くてーー。
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