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「大丈夫?」
最初、幻聴かと思った。
全く人気のない裏通り。回りを見渡しても人影はなくーー。
でも、頬に温かな何かが触れ、我に返った。
「君、大丈夫?」
声を掛けてくれたのは、落ち着いた雰囲気が漂う大人の男性だった。優しい笑顔と、低い声が印象的で、やや切れ長の目に思わず吸い込まれそうになった。
見上げるほどのすらりとした長身の彼。
同性でも思わず見惚れるしまうくらい格好良かった。
そう彼が、懸信孝さん。
その時、初めて、ナオという名前以外の記憶と、声を失っていることに初めて気がついた。
そんな出会ったばかりの僕を彼は、温かな大きな掌でそっと包みこんでくれた。服越しにかすかに香るコロンの匂いは懐かしくて・・・
僕は、彼に拾われ、一緒に暮らすことになった。
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