怒りと悲しみの矛先と、なくした記憶の断片

2/8
前へ
/392ページ
次へ
休憩時間に、携帯の画面を覗くと、茉弓さんからの着信が残っていた。一時間毎に連絡を寄越してくれていたみたいで、恐らく信孝さんの事だろう。 ー茉弓には俺からちゃんと説明するー 車から下りる時そんな事を口にしていた彼。 電話を掛けるべきか、掛かってくるのを待つべきか、悩みに悩んだ末、リダイヤルを押した。 『ごめん、バイト中だったよね?』 いつも通りの明るい声。怒っていない。 「休憩中なので大丈夫です」 『信孝から結婚を白紙に戻したいって急に言われて・・・びっくりして彼に聞き返したんだけど、何も答えてくれなくて・・・ナオくんなら何か知ってるかなって思ったんだけど』 茉弓さんの言葉に、ドキリと心臓が飛び跳ねた。 「茉弓さん・・・あ、あの・・・」 ちゃんと謝らないと。 でも、どうやって説明しよう。 正直にいうべきか、嘘を貫くかーー 「・・・好きなんです、信孝さんの事が・・・」 『そんなの知ってる。彼とすごく仲いいものね』 「友達とかじゃなくて、その、つまり・・・信孝さんを僕に下さい!」 わっ、わっ、わっ、何を言ってるんだ。 「ごめんなさい」 慌ててブチッと一方的に電話を切った。 後先考えず口走ってしまった。 どうしよう・・・どうしよう・・・着信音が鳴り響く携帯を片手に、茫然自失となった。
/392ページ

最初のコメントを投稿しよう!

967人が本棚に入れています
本棚に追加