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「茉弓さん待って・・・信孝さんが、手を尽くして探したけど手掛かりが何一つなかったって・・・」
「信孝がその気さえ起こせば、ナオくんが何者かなんてすぐ分かるわよ。それに彼の実家に頼めば、赤子の手をひねるより簡単にあなたの素性を突き止められる」
「そんな・・・」
茉弓さんから突き付けられた事実はあまりにも衝撃的で、すぐに受け入れられるものではなかった。
「ついでだからいい事教えてあげる。彼の実家はね・・・」
動揺する僕に、とどめを刺そうと意味深な薄笑いを浮かべる彼女。
「まぁ、ナオくんには所詮無理よ。信孝の妻として認められるのは私しかいないもの。素直に彼を諦めて、私たちの前から消えてちょうだい」
茉弓さんが紙コップを鷲掴みし、中身を僕めがけて投げてきた。咄嗟のことに手が反応して顔に掛かるのを何とか防いだものの、手首にひりひりとした痺れるような痛みが走った。最初は熱いとは感じなかったけど、時間を追う毎に痛みが増して来て、近くにあった手洗い用の蛇口に駆け込んだ。
勢いよく流れる水道で手首を冷やしていたら、前にも同じ事があった事をふと思い出した。
「この泥棒ネコ!恩知らずの恥知らず!バチが当たったのよ。私や、この子から彼を奪おうとするから。いい気味だわ」
茉弓さんの言葉が冷たく胸に突き刺さる。同時に、別の女の人の声が耳に入ってきた。
ーこの泥棒ネコ!恩知らずの恥知らず!私や、この子から彼を奪おうとするからよバチが当たったのよー
その人の声も怒りに震えていた。
僕は何も知らない。
ただ、信孝さんが好きなだけなのに・・・なんで・・・
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