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「そんな目で見ないでよ。悪いのは私じゃない。ナオくんの方でしょ」
騒ぎに気付いた人たちがざわざわし始めた。ちらちらと見られ、好奇の視線に晒され息苦しくなった。
同僚やお店に迷惑を掛けるわけにはいかない。
びしょびしょになった袖口を捲り上げて、歩き出そうとしたら足に力が入らなくて、その場にへたり込んだ。
ー泥棒猫!
ー恩知らずの恥知らず!
ーバチが当たったのよ、いい気味
頭の中で何度も何度も繰り返される言葉。茉弓さんと、女性の声が交互にこだます。
嘲笑われ、卑下され、一方的に理不尽に責められ・・・
「もう止めて!お願いだから!」
ありったけの声を張り上げ、両手で耳を押さえた。悔しくて涙が溢れてきた。
「・・・ひ・・・な・・・さん・・・もう許して・・・」
わなわなと震える唇から紡ぎだされたのは、茉弓さんとは別の名前。
「ひな!?誰それ?ナオくん、頭までおかしくなった?」
茉弓さんが冷笑していた。
ちょうどその時だった。
「もう止めろ」
重たい空気を一掃する低い声が辺りに響き渡ったのはーー
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