怒りと悲しみの矛先と、なくした記憶の断片

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「ナオは関係ないだろ?責められるべきは俺も君も同じはず」 大好きな彼の声に安心したのか、ぽろぽろと涙が次から次に溢れ出た。 「のぶたかしゃん!」 手で涙をゴシゴシと拭い、鼻を啜りながら彼の名前を口にすると、彼は苦笑いしながらしゃがみ込み、やれやれといった表情で、僕の顔を覗き込んできた。 「本当泣き虫なんだから・・・立てる?」 「多分無理・・・かも。足に力が入らないの」 「そっか」 背中と腰に彼の腕が回ってきて、気が付いた時には体が宙にふわりと浮いていた。 「下ろして!僕はいいから、茉弓さん・・・」 刺すような冷たい視線を背後に感じ、手足をばたつかせた。 「茉弓には光希がいるから大丈夫だ」 「みつきさん!?」 龍さんとデートのハズじゃ・・・ 辺りをキョロキョロ見回すと、ちょうど光希さんが、龍さんに手を引っ張られて姿を現した。 熱でもあるのか顔色があまり良くない。怠そうにしてて、足取りも覚束ない。やっと歩いて るそんな感じだった。 「茉弓」光希さんが声を掛けると、彼女はきっと彼をーー正確には龍さんを睨み付けた。 「ナオくんの正体を知ってるくせに、何で知らないフリするの?何で庇うの?信孝も、光希も、龍成も、みんなナオくんの味方だもんね。私の味方は誰もしてくれない。そんな人殺しのどこがいいのよ!」 茉弓さんがふらふらと歩き出した。 「皆さん、このスーパーには人殺しがいますよ!!」 狂ったかのように髪を振り乱し、喚き散らす彼女の手をすっと現れた昆さんが掴み、どこかに連れていった。 「離して!痛い!」 茉弓さんの甲高い悲鳴に、店内は一時騒然となった。
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