怒りと悲しみの矛先と、なくした記憶の断片

7/8
前へ
/392ページ
次へ
あのあと、逃げるようにスーパーから帰宅した。 「もともと情緒不安定だったから・・・茉弓の事はもういいだろう。それよりも早く!」 リビングのソファーに腰を下ろした信孝さんが、上に座るよう、ポンポンと軽く膝を叩いた。 「着替えしてくるから」 「待てない。一人でどれだけ寂しかったかナオに分かる?」 うるうると涙目で見詰められ、胸がキュンとしたのはいうまでもない。でもーー、 「信孝さん、あのね」 意を決して切り出した。 「茉弓さんが言っていた事は本当なの?」 信孝さんに烈火の如く怒られると思ったけど、意外にも彼は落ち着いていた。 「そこにいる龍に聞けばいいだろう。ちなみに俺はナオの過去には一切興味がない。知ろうとも思わない。今、こうしてナオが側に居てくれるだけで十分幸せだ」 「でも、彼女を不孝にしてまで・・・」 「ナオ!」 信孝さんが声を荒げた。 「いいなぁ、痴話喧嘩。俺達もしよう」 「龍成、抱き付くな!苦しい!」 差し向かいのソファーでは、光希さんと龍さんがいちゃついていた。というか、龍さんが、光希さんにじゃれつき、うっとおしがられていた。 龍さん、上手くいったんだ。 光希さんも、いやいや言ってる割には嬉しそう。 でも内心は、妹を傷付けた僕に対し、腸の煮え返る思いでいっぱいだろう。なのに、なんで怒らないの?怒りを露にしないの?
/392ページ

最初のコメントを投稿しよう!

967人が本棚に入れています
本棚に追加