涙に沈む

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キャァーー!! すごぉーーい!! 天井にくっつきそうなくらい大きなクリスマスツリーに明かりが灯り、その場にいた大勢の子供達が一斉に黄色い歓声を上げ、パチパチと拍手しながら目をキラキラと輝かせた。 一見すると、華やかで楽しい一時。 でも、一人だけ無関心の子が・・・部屋の角に膝を抱えたやせっぽちの小さな男の子だけは何故か混ざろうとしない。ただ、ぼんやりとその光景を眺めているだけ。 ー皆さんで、福光先生にありがとうを言いましょうね マイクを手にした初老の女性の甲高い声が広い部屋の隅々まで響き渡る。隣には、恰幅のいいスーツ姿の男性がにこやかな笑顔で立っていた。子供達から可愛い声でありがとうを言われ、目尻が下がりっぱなしになった。 『いい、みんな。今日、福光先生がここにいらっしゃいます。お利口さんにしていれば、明日から先生のおうちで暮らすことが出来るのよ』 男の子がここに来てから、何人かの女の子が男性の”子供”として引き取られた。みな、目鼻立ちが整った可愛い子ばかり。何故か、誰一人ここに遊びに来たことはない。 みんな? いつもは、女の子だけなのに。 『ご子息の礼さんが遊び友達が欲しいそうよ』 女性がまるで品定めするかのように、子供たちを見渡し、目に止めた何人かの子を前に出し、全身くまなく舐め回すと、そこにいたせんせいに別室に連れていくように命じた。 男の子は知ってる。 この女性の別の顔を。だから睨み付けた。 うわべは身寄りのない子供達を引き取り、甲斐甲斐しく面倒をみる養護施設の園長。裏の顔は冷酷無比 な血も涙もない、仏心を得る前のまさに鬼子母神。
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