涙に沈む

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昆さんに言われ、彼の方に目を向けた。疲れの色が滲む横顔。少し頬が痩け、やつれたように感じた。 「ここまで愛されているあなたが羨ましい」 昆さんが僕らの指に指輪が嵌めてあるのを見付け、嬉しそうににっこりと微笑んだ。 「・・・1年前、信孝はここでの生活を切り上げ、実家に戻って家を継ぐ覚悟を決めたんです。すでにご存知の事とは存じますが彼の実家は、関東一円に縄張りをもつ広域指定暴力団縣一家です」 「暴力団!?嘘・・・そんな」 耳を疑うような言葉が出てきて驚いた。まさに青天の霹靂。 「もしかしてご存知ではなかったですか?てっきり話されていると思っていました」 昆さんも驚いていた。 「まぁ取り敢えず、話しを続けますね。信孝が目を覚ます前にどうしてもあなたに真実を知って貰いたいので・・・継ぐと言っておきながら、突然継がないと言い出したんです。理由を聞いたら、大切に思う人がいるから、その人を守りたい、そう答えが返ってきました。彼は、ずっとあなたの事を想い続けていたんです。でも男同士。一緒になれるわけがないと、茉弓さんとの結婚を決めたんです。午後に茉弓さんがここにいらっしゃいますので、3人でよく話し合って、今後どうするか決めたらどうですか?」 昆さんの言葉に、はいと返事をしたけれど涙に飲み込まれた。自分が犯した罪の深さに、重さに心が悲鳴をあげていた。 「信孝の前ではなるべく明るく振る舞ってあげて下さい」 「はい、すみません」 涙を手の甲でゴシゴシ拭いながら応えると、昆さんは、再度、信孝さんと二人きりにしてくれた。 茉弓さんごめんなさい。 やっぱり彼が好き・・・ 過去には拘らないと言ってくれた、さびしがりやの彼に寄り添って生きたい。 もう一方の手を彼の手にそっと重ねた。 一度止まったハズの涙が、知らず知らずのうちに溢れ出てきた。
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