満ちる

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  漏電による火災が起き、引っ越し先のアパートが全焼したのだ。満ちるは学校にいたため難を逃れたが、夜勤明けで就寝していた両親は死亡した。  娘ならば悲しむべき惨事だったはずだが、ここでも満ちるは厄介な両親が亡くなってくれたと秘かに安堵していた。  高校卒業後、両親の死亡保険金を手にした満ちるは、過去の人生を切り捨てるように上京する。そして、その美貌を武器に銀座のクラブでホステスとして働き始めた。  周囲には両親を失った自らの過去を語り、大学進学のための資金を稼いでいると同情を買った。もちろん、彼女の作戦は見事に成功し、いつの間にかクラブのナンバーワンへと上り詰めたのだった。  数年後、偶然にも接待で訪れた元高校野球のスター選手で全国展開する洋菓子店「デュ・ミエィル(甘いはちみつ)」の若き社長御曹司・飯島一智と出会う。一智は満ちるの美貌に一目で魅せられ、彼女の大学進学を熱望する真面目な態度に惚れ込んだ。  やがて、一智の強引なアプローチで、二人は交際を始め結婚までに至った。結婚後、満ちるは宣言した通りに大学へと進学した。  それに関しても仕事に追われる夫は喜んで後押ししてくれた。  だが、人生はデュ・ミエィル、甘く美味しくなければ意味がない。その実、裏では夫の目を盗んで、合コンやクラブで知り会った男たちと楽しい時間を過ごしていたのだ。  大学卒業後に長女くる美を妊娠、出産。はた目から見れば夫婦円満だったが、内情は違っていた。平凡で面白味もない結婚生活に、飯島満ちるはうんざりしていたのだ。
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