27人が本棚に入れています
本棚に追加
飯島一智……その名前に聞き覚えがあったが、目の前にいる男性と結びつかなかった。千秋や満ちるより少し年下だろうか、男性ファッション誌から抜け出したような背が高い、薄ぺっらいイケメンだ。
自分の好みではないが満ちるはこういうタイプが好きだったと、千秋はかつて親友が大好きだった俳優やミュージシャンの姿を思い浮かべた。
別荘に到着する前に近くにあるオーベルジュで、地元で採れた新鮮な野菜や魚介類を使ったフレンチのフルコースを堪能した。そして、勧められるまま料理に合ったワインを飲み、千秋は久しぶりに寂しさを感じない時間を過ごした。
その間も満ちるは夫と仲睦まじい姿を見せつけ、千秋は羨ましく思いながらも親友の幸せを我がことのように喜んでいた。
「一智さんはワインを飲まないんですか?」
「短い距離でも山道を運転するから、遠慮しておきます」
「まぁ、それは良い心がけですね」
「いつもはこんな真面目な人じゃないのよ。単なる車好きで愛車に傷をつけたくないから、大好きなワインを飲まないだけなの。それよりも、あの物静かな千秋が酒豪になっていたとはねぇ」
「ヨーロッパでは水よりもワインの方が安いのだも。すっかり飲み慣れてしまったようだわ」
美味しい食事と楽しい時間に、ついつい千秋は飲み過ぎてしまったらしい。オーベルジュを出る頃には、すっかり酔っぱらって千鳥足になっていた。
「大丈夫、千秋?」
「あ、あえぇ、おかちいわぁ。い、いちゅもはもっとちっかりちているはじゅなのにぃなぁ……」
満ちるに介抱されながら千秋はオーベルジュを後にして、飯島家の別荘へ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!