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ところが、その夜に別荘で火災が起きてしまう。あっという間に炎が燃え広がり、別荘は全焼という大惨事に至った。
近所にあるペンションのオーナーが偶然通りかかり、火事を発見し通報した。命からがら逃げ延びた千秋は、救急車で病院へと搬送されたのだった。
搬送された直後、咽頭の浮腫により気道が閉塞し、一時は窒息し呼吸が停止するという危険な状態に陥ったらしい。
火災当時、千秋はタンクトップにショーツ姿で寝ていたそうだ。両肩手足、衣服を身に着けていない剥き出しの部分に火傷が集中し、頭部は髪の毛が焼け焦げてしまったため丸坊主にしてあると聞いた。
それでも程度は違うが体中に火傷を負い、全身包帯に覆われている状態だった。火事の際に熱や煙を吸入してしまったため、咽頭や声門を損傷して声も出ない。それなので、しばらくは喋ることも筆談することもできそうにもなかった。
そして、全焼した別荘から男の遺体が発見された。何故か千秋と同じ寝室で寝ていたらしく、どうやら男は全裸だったという。ベッドサイドに置いてあったアロマキャンドルの火がカーテンに燃え移ったのが原因だったそうだ。
だが、ベッドサイドにキャンドルがあったことすら千秋は覚えていなかった。いや、それどころか別荘に到着したことも、ベッドで眠っていたことすら覚えていない。
確かに途中で寄ったオーベルジュでワインを飲んだが、泥酔するほど飲んではいないはず。十二年ぶりに親友と再会して気が緩んだとしても、あの量で記憶を失うはずなどなかった。
それなのに、全く記憶がないとはどういうことだろうか?
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