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二か月後、五十嵐の許可が下り、千秋は一時帰宅することになった。もちろん、自宅とは彼女が都内に購入したマンションではなく、満ちるが嫁いだ飯島家の邸宅だ。連絡を取り合って満ちるの今の暮らしぶりは多少なりともわかっていたつもりだった。
だが、彼女は夫の一智や娘のくる美の存在を隠し、名家の嫁だという真実も告げなかった。
「満ちるさん、調子はどう? 二階に上がるのは大変だから、リビングの横にあるゲストルームをあなたの寝室にしたわ。それで構わないわよね?」
満ちるは意地の悪い姑がいると愚痴をこぼしていたが、飯島富美子は品の良い女性で優しそうに見える。
「ふん、こんな女は火事で死ねばよかったのよ! どうして私の彬夫が……」
むしろ、彼女の妹の飯島菜津子の方がいわくがありそうな気配がする
「菜津子、口を慎みなさい。この家の主人は私ですよ」
姉が憤慨する妹をたしなめる。
「お母さん、そうは言っても仕方がないですよ。菜津子叔母さんは大事な一人息子を亡くしたのですから」
「一智、お前まで満ちるさんの前でそんな口をきいて、どうしたのですか?」
「どうしたも、こうしたもありませんよ。全ては満ちるに聞けばわかることだ、変に肩を持つ必要なんかありませんよ。それに、どうせ僕たちの関係は紙切れ一枚の繋がりですから」
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