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そんな冷たい捨て台詞を残し、一智は部屋から出て行った。それもそのはず、満ちるは菜津子の息子彬夫と何やら深い関係があったようだ。
その後に聞いた話によると、千秋が招待されたのは満ちると彬夫が密会に使用していた菜津子名義の別荘だったらしい。
不審火も放火の疑いもなく、しかも地元に貢献している飯島家一族の別荘での火災事故。警察でさえ事件だとは思っていないが、息子を失った菜津子だけはこの火災事故を放火ではないかと疑っているようだ。
飯島家での対応はどこか事務的で、一智も菜津子も無視を決め込んでいる。まだ一人では何もできない状態なので、浜村みどりというヘルパーが派遣されてきた。
今時流行らない牛乳瓶の底のような分厚いレンズの眼鏡をかけ、歯列矯正をした中年太りの浜村は、言葉数も少なく無愛想でやる気がないような印象だった。
だが、既に咽頭の損傷も治り声が出る状態の千秋にとって、無駄口を叩くような相手は危険極まりない。
うっかり言葉を発したら正体がばれてしまうかもしれない。周囲をうろつかれるのも困るので、浜村の態度は返ってありがたいぐらいだった。
千秋を心配するのは主治医の五十嵐だけだ。その黄金の指で千秋は飯島満ちるの元通りの身体と顔に治す予定になっている。だが、私は千秋・サルトレッティで、飯島満ちるではない。
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