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千秋の頭の中には疑問しか浮かんでこなかった。そういえば、満ちるはレーシック手術をしたと夜でもサングラスを外さなかった。だが、妙だと思いつつも、あえて彼女に尋ねようとはしなかった。
それはもしかしたら……私そっくりに整形手術をした顔を見せたくなかったからかもしれない。
そして、一智の若かりし頃の写真を見て千秋は驚いた。どうりで彼の名前に聞き覚えがあるはずだったのだ。飯島一智は全国展開する洋菓子店の社長というだけでなく、過去に多くのファンを沸かした高校野球のスター選手だったのだ。
中学二年生に頃、同世代の男子に無関心だった奥手な織本千秋が、甲子園球場で活躍する孤高のピッチャーに恋をした。彼一色で染まったように鮮やかで熱い、燃えるようなひと夏を過ごした。
「へぇ、千秋ってああいうのが好きだったんだ」
日に焼けた精悍な顔立ち、男らしい筋肉質な体。まるで熱病にでも罹ったように、ひと夏限りの淡い恋……過去に憧れた人が今、目の前にいる。しかも、親友の夫となって現れたのだ。
偶然の出会いに驚きながらも、自分の置かれている現状を考えると、千秋の胸には更なる不安が渦巻いていた。
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