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「一体これはどういうことなんだ?」
飯島一智は妻満ちるの変貌ぶりに驚いていた。自分や娘に対して冷たい妻が火災事故の後、急に優しく柔和になったのだ。迫りくる死を目の前にして、ようやく今までのおこないを悔い改めようと決意したのだろうか?
いや、それにしても、あまりにも今までの妻とは違い過ぎるだろう。まるで別人と接しているかのような錯覚にとらわれるほどだ。
折に触れ不自由な妻の身体を支え、身体を密着させていると、恥じらうような仕草を見せる。さっき抱きかかえた時の反応は、演技だとは思えないくらいだった。好色な満ちるが貞淑な女性に変化したのを一智はずっと訝しがっていた。
そして、娘のくる美を愛情あふれた眼差しで見つめ、手を差し伸べようとした姿はまるで聖母マリアのようだった。まだ痛む腕に娘を抱き、膝の上に乗せ、言葉にならない話を嬉しそうに聞いている。
それが本来の妻の姿なら、ずっとこのままの満ちるでいて欲しいと願っていた。
飯島一智はこの世に生まれた時から祖父が築いた洋菓子店「デュ・ミエィル」の三代目を引き継ぐことが決まっていた。
小学生から始めた野球で才能が開花しても、高校野球で甲子園大会に出場しても、プロへの道を志そうとは思わなかった。
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